COLUMN

Akiyo Yagyu chapter1

Akiyo Yagyu chapter1

どういった仕事をされているんですか?

アートコーディネーターやアートコンサルタントという肩書きで仕事をしています。
今は主に現在美術家の椿昇さんのアシスタントとして、ARTOTHÈQUE(アルトテック)というプロジェクトをやっています。
5年前に京都造形芸術大学で始まったプロジェクトで、ローカルなアートマーケットを新たに創出するのが目的です。
椿さんや中心のアドバイザリーといっしょに若い作家をセレクトして、彼らが卒業してからコマーシャルギャラリーに入り、
アーティストとして生計を立てていくまでに携わっています。

また、毎年2月末~3月上旬に開催される「ARTISTS FAIR KYOTO」の運営も行っています。
アルトテックの活動を延長したかたちで、京都府の主催で若手作家が直売する場所を提供するアートフェアです。
ギャラリーは一切介入せず、基本的にアーティストが売った額は100パーセント入るけれども、
アーティストが自らお客さんとのやりとりもする。
でもその次につながるコミッションワークだとか、海外のギャラリストから声がかかるような場所です。

あとは、同世代の作家のエージェントも務めています。
彼らが海外で展覧会をしたり、海外と取引をするとき、国内の宿泊施設や個人から注文が入ったときの仲介をしています。

京都を意識したローカルマーケットを見据えているんですか?

京都から始めたので必然的に京都にはなったんですけど、最終的には取引先が海外に拡がって、
既存の国際的なギャラリーに取り扱われなくとも、様々なルートから作家に仕事が来る状況になればいいなと思っています。

内需の拡大を軸にアートに関わる人を拡げていったんですね。

今まで京都においてはホテルでアートフェアもやっていたし、国際的なアートフェアにも出展するギャラリーもあったんです。
でも結局撤退してしまった。
彼らはインバウンドのお客様を対象にすることもあったのですが、後々京都という場所自体にはアートマーケットがないと気づいたのでしょうか。
京都って外から見ると文化の集合体であったり、芸術家がいたり、人間国宝も住んでいて文化の進歩が感じられ、
それは事実なのですが、正直なところ我々のお客様も京都の方は比較的少ないです。

アーティストがたくさんいるけど、需要がなくて供給過多になっているのでしょうか。

京都に限らず……東京は経済の中心地ということでアートの売買が比較的活発なようですが、
だからといって東京在住のアーティストが作品制作だけで生計を立てているかというと、そうでもないようです。
大学を卒業して、仕事やギャラリーのコネクションがあるだろうと東京に行かれた作家のほうが、
東京では仕事が入らず、地元のギャラリーから声がかかったり。
卒業したばかりの彼らには制作のディレクションが必要なので、京都に戻り、大学に出入りして制作の指導を受けています。
アーティストとして出稼ぎに行かなくてもよいと気付く人が増えてきていると思います。

アートフェアでの売り上げがギャラリーを追い抜くようなかたちで市場を拡大していく可能性もあるんでしょうか。

ホームにいては売り上げが十分ではないので、費用がかかっても海外のアートフェアに出向する方がよく売れる。
年間のギャラリーによる売り上げのうち、40%以上がアートフェアでの販売だったというレポートもあります。

アルトテックとしてはギャラリーを排除するという意図は全くないんです。
作品を売るだけではなくて、椿さんや大庭さんを始めとする優れた指導者でもあるアーティストから、
直接作家や作品に意見を頂いてクオリティコントロールに反映もさせています。
最終的には本当に良いギャラリーの取り扱いとなり、美術館のコレクションになったりと、
アートの健康的なサイクルを促進できたら良いと思っています。

クオリティーコントロールで気を付けていることは?

取り扱いアーティストたちが作品を送ってきたら、全て開けてチェックします。
今回の展覧会のために作った作品であっても、良くなければ外します。

世界の様々な場所で認識されるまで、10年、15年という歳月がかかります。
ちょっと売れ始めると、たくさんの人が知っているように見えますが、外に出ると全く認識されていないことがほとんどです。
その間に作家が変な路線変更など誤ったことをすると、せっかく築き上げたものが崩れてしまう。
そこを我慢してひたすら今の作品を作り続けるよう作家さんに伝えることもあります。

学生には梱包方法も指導します。
芸大では作品を作らせるばかりで、梱包や納品方法はあまり教えません。
薬局の裏から持ってきた段ボールを適当に巻いて、輸送時に作品が破損してしまったという話は山ほどあります。
基本的には卒展前に作家と作品をチェックして、
安定して作品を作り続けるだろうと判断した学生にはアルトテックでの取り扱いについて声をかけ、継続的に仕事をします。
少しでも筆が緩めば作品に出るので、その時は制作をペースダウンすることを提案したり、
展覧会のメンバーに入れなかったりと調整するようにしています。

アーティストと作品のイメージが認識されて自由に表現ができるまで、10~15年かかるんですね。
若いうちから売ることを考えると表現を固定しなきゃいけないけれど、
アーティストがその表現しかできなくなるというジレンマも?

あると思います。
先日ボルタンスキーの作品を見にいったんですが、この人は職業アーティストなんだと思ったんです。
職業としてのアーティストが向いている人もいれば、表現者になる方が向いている人もいる。
両方できる人もいます。
アルトテックにはいつも在庫がない人気の作家がいて、展覧会でも予約で完売するんです。
そういう彼ら、実は裏では発表しない面白いドローイングや絵画をたくさん作っているんですよ。
市場に出す作品と出さない作品をセレクトしなきゃいけないというのは、彼らも分かっています。
私は芸大にいた頃、アーティストはもっと自由な表現ができるものだと思ってましたが、
働き始めて、アーティストほどストイックな仕事はないなと思い始めた。
どれだけ表現するかより、どれだけ理性で制限するかが今のアーティストには大事なんだと思います。

柳生アキヨ

<プロフィール>

柳生アキヨ
1988年生まれ。京都在住。京都造形芸術大学美術工芸学科卒業。
ARTOTHEQUE アートコンサルタント、ARTISTS' FAIR KYOTO コーディネーター、Y-Labs 株式会社アートアドバイザー、椿昇・香月美菜エージェント。
中国足心道療術師。

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